芸術家のくすり箱は、ダンサー・音楽家・俳優・スタッフの「ヘルスケア」をサポートし、芸術家と医師・治療師・トレーナーをつなぐNPOです。
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「医療費控除」をお忘れなく! 

身体を使う芸術活動には、そのメンテナンスのために治療やケアなど、さまざまな費用がかかります。そのうち一部は、確定申告の際「医療費控除」の対象となり、申告手続きによって税金の負担を減らすことにつながります。

案外その詳しい方法がわからないまま、控除対象となる領収書をなくしてしまったり、計上しもれてしまったり、もったいないことはしていませんか?

改めてその「医療費控除」について、芸術家の活動を支援するアーツ・アンド・ロー代表理事で公認会計士・税理士の山内真理さんに解説していただきました。

表現者と医療費

表現者にとって健康な身体は活動の基盤だ。最高のパフォーマンスを発揮するために、自分の心身にあったヘルスケアのありかたを獲得していくことは言うまでもなく重要だが、万が一怪我や病気に侵された時には、その経済的負担を少しでも減らす知恵を持っておきたい。

筆者がこの原稿を書いている時、ちょうどテレビのニュース番組でジストニアが取り上げられていた。ジストニアとは筋肉が収縮し、震えやしびれ、痙攣などを起こす難治性の疾患で、国内に2万人ほど患者がいるという。ジストニアのうち手や腕など体の一部を酷使することで発症する職業性ジストニアと言われる疾患の患者には、ピアニストやバイオリニスト、管楽器奏者、ドラマー、作家など表現者が数多く含まれるのだそうだ。

そういえば、筆者がその演奏に感銘を受けた左手のピアニストもジストニアだった。ジストニアのように発症後長期に渡り付き合わざるを得ない疾患の治療には、継続的な支出を伴い、支出額は高額になることだろう。

医療費控除とは

高額の医療費を支出する場合には、生命保険の給付金や健康保険の療養費などで手当するほか、所得税・住民税を軽減する「医療費控除」の対象とすることで負担を軽減できる場合がある。医療費控除とは、個人にかかる所得税や住民税の計算において、支出した医療費の金額に基づき税金の負担を安くする仕組みのことだ。自分の分のみならず生計を一にする家族の分を支払った場合にも適用することができる。

ダンサーや俳優が公演や稽古中に大怪我をして入院した場合や、難病に侵され特殊な治療を要するようなケースでは多額の医療費がかかるため医療費控除を利用して税金を安くできる可能性が高い。しかしそうでなくても、職業上酷使される身体をケアするため、定期的に治療を受けた結果、積み上げるとそれなりの支出額になるという場合には医療費控除を適用して税負担を軽減できる余地がある。

まずは控除の対象に含まれる医療費の範囲や、医療費控除を適用した結果どの程度税負担を軽減できるかの目安をあらかじめ知っておくことが大切だ。

医療費控除の対象に含まれるもの

身体を酷使する表現者にとって日々のヘルスケアの重要度は高く、体調を整えるためのサプリメントや栄養ドリンク代、疲労回復のためのマッサージ代など、恒常的にヘルスケアの支出があるという人も多いだろう。しかし、疾患の予防や体調を整えるための支出は基本的に医療費控除の対象に含まれないので注意が必要だ。

以下の表を見て欲しい。診療や治療で通常必要な費用、例えば医師等の診療報酬や治療・療養のための医薬品購入は医療費控除の対象に含まれる。しかし、美容や疾患予防、健康増進のために購入するものは医薬品でも対象外となる。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師の資格を持つ者による施術の対価は基本的に医療費に含まれる。

ただし、疲れを癒したり肩こりを和らげたい、といった体調を整えるための、治療と直接関係のない施術は医療費には含まれない。医療用器具の購入は、骨折時の松葉杖のように医師の指示により治療上の必要性が認められる支出は対象だが、治療上の必要性が特段認められない支出は対象外だ。健康診断費用や人間ドッグ代のように、疾病を発見するための費用は対象に含まれない。(ただし、例外的に人間ドッグで重大な疾患が発見され治療を行う場合には人間ドッグ代も含めてよいとされる。)

このように医師等の国家資格を持つ専門家による施術ないし指示か、治療の一環で支出するものか、といった点が重要なポイントだ。

■医療費控除の対象に含まれるか?
医師・歯科医による治療・診療を受けるための費用
入院中の食事代(自己都合の特別食や外食を除く)
差額ベッド代(本人や家族都合によるもの) ×
差額ベッド代(医師の指示によるもの)
通院のための電車代、バス代
通院のためのタクシー代(陣痛等急を要する場合や他の公共交通機関を利用できない場合を除く)
風邪薬、胃腸薬等の医薬品で治療のために購入するもの
治療に必要な補聴器、松葉杖、漢方薬、ビタミン剤等で医師の指示に基づき購入するもの
疾患予防や健康維持のために服用する医薬品やビタミン剤、栄養ドリンク等 ×
健康診断費用、人間ドッグ費用(重大な疾患が発見され治療を行う場合を除く)
美容整形、美容のための歯列矯正代、エステ・スポーツジム代など ×
コンタクトレンズ代、眼鏡代(治療のため医師の指示により購入するものを除く)
鍼灸院・マッサージ代(治療上必要で医師の指示に基づくもの)
妊婦の定期健診、分娩費用、不妊症治療費など

医療費控除のための手続と計算

医療費控除は「確定申告」で医療費に関連する事項を記載することで適用できる。個人事業主として活動するアーティストなら、毎年の申告で控除を適用すればよいが、組織に所属している場合は、勤務先の年末調整では適用が出来ず、別途確定申告が必要だ。また、医療費の支出を証明する書類の原本(領収書など)は確定申告上必要になるため、捨てずにきちんと保管しておきたい。

例として、課税所得500万円の人が年50万円の医療費を支出した場合、医療費控除はいくらになるかを見ておこう。

計算式の例(治療にあたり保険金の給付が8万円ある場合)

医療費控除額=医療費支出額―保険金等―(10万円、ただし総所得200万円未満は 総所得×5%)

  • この場合の医療費控除額は50万-8万円-10万円=32万円
  • 実際に安くなる税金はそれに税率をかけたものになるので、所得税:32万円×20%=6.4万円、住民税:32万円×10%=3.2万円、合計9.6万円
*ご参考*

執筆:山内真理(公認会計士山内真理事務所アーツ・アンド・ロー)  制作:NPO法人芸術家のくすり箱 [2015.11作成]