ケガや故障は、できれば避けて通りたいものですが、芸術家はパフォーマンスを追及するあまりカラダを酷使してしまいがち。ケガは他人ごとではありませんね。だからこそ、身体に痛みや違和感など感じた時には、目をそむけず、”早く””適切に”対処する必要があります。その対処が、その後の回復の早さや、パフォーマンスの質を落とさないことにつながるのです。
故障かな?ケガかな?と思ったら
まずは応急処置から
痛みや違和感を感じたら、まずは応急処置(芸術家なら知っておきたいシリーズVol.1参照)を行います。痛みがひかない場合や、違和感が何日も続くようなときは、医療機関を受診しましょう。
診察・治療のときに「伝えること」&「確認すること」
例えば、骨折の場合。オフィスワーカーも、芸術家も、基本的な治療やリハビリ法は同じかもしれませんが、固定法の工夫や今後の過ごし方に対する心構えについての指導は、大きく違ってきます。骨がくっつけば骨折は治ったことになり、デスクワークに支障はありませんが、パフォーマンスに必要な筋力や、関節可動域(関節の動く範囲)をケガする前と同じレベルに戻したり、左右差を解消するためには、そこからさらに努力が必要なのは容易に想像がつきますね。
「聞かれなければ言わない、問わない」というのでは、パフォーマンスに復帰したいあなたの意思は通じません。積極的に状況や希望を伝えて、目標が定められるように、右表のことはしっかり伝え、確認しましょう。
伝えること
- 受傷状況
いつ(いつから)・どのような状況・何をやってどうなったか - 仕事への影響
どのような仕事で・そのケガがどんな支障になるか(何ができれば治ったと思えるか)・休める状況か
確認すること
- どんな怪我なのか
(捻挫なのか?骨折なのか?肉離れなのか?) - 重症なのか?軽症なのか?
- 一般的にどれくらいで治るものなのか?
- (治るまで)やってはいけないことはあるのか?
あなたの身体を作るのは、あなた自身
リハビリは、専門のトレーナーなどについて効率よく行うこともできますが、時間的・金銭的に余裕がなければ、治療にあたった先生に、自分で取り組むべきことを聞いてみるとよいでしょう。特に、「スポーツドクター」の資格を持つ医師は、スポーツをする人々の健康管理や、スポーツ障害に対する予防、治療等を行っていますので、スポーツ選手同様、カラダを日常生活以上のレベルで使うパフォーマーについても理解が深いかもしれませんので、医師を探すときには目安になるでしょう。
参考:「スポーツドクター」の検索
日本体育協会 http://www.japan-sports.or.jp/doctor/
そして、一番大切なことは、どう取り組むかは、あなた次第ということです。どんな指導を受けても、実行しなければ、身体は変わりません。思いっきりパフォーマンスに集中できるカラダを作れるのはあなただけなのです。
自分に必要な治療・施術を選ぼう
芸術家が、痛みや不調を「何とかしたい」と思ったときには、病院だけでなく、さまざまな形態の治療院などを利用しています(「芸術家の健康に関する実態・ニーズ調査」2007年より)。どこを選ぶかは、症状、仲間の紹介、芸術家を多くみている先生かどうか、自分との相性、通いやすさなどポイントはいくつかありますが、それぞれどんな治療・施術をするところなのか、知っておきましょう。ここでは、前出の調査で芸術家が治療のために通った施設(または手技)上位6種を紹介します。
病院・診療所・クリニック
「医師」が診察・治療など医療行為をおこなう。レントゲンやMRI検査ができる(検査の種類は施設による)。リハビリでは、「理学療法士」や「作業療法士」が、手術や障害で落ちてしまった機能を回復させるための指導を行う。特殊な治療以外は、健康保険の対象。
鍼・灸治療院
「鍼灸師」(国家資格)によって鍼を打ったりもぐさを燃焼させることで経穴(ツボ)に刺激を加えて、不調を改善させる東洋医学による施術。健康保険の対象になるのは、神経痛やリウマチ、腰痛症など6種類の病気で、かつ「医師」の同意書がある場合のみ。
整骨院・接骨院
「柔道整復師」(国家資格)によって、打撲、捻挫、挫傷(筋、腱の損傷)、骨折、脱臼に対して施術を行う、健康保険対象の施術。柔道整復とは、日本古来の医術「柔術」の活法を基本とし怪我人を回復させる技術をもとに発展した手技療法。
整体治療院
「整体師」による民間療法。骨格、筋肉、経絡などに働きかける手技で、筋肉の緊張をほぐしたり、血行をよくし、症状の改善をはかる。その手法はさまざま。健康保険の対象外。
カイロプラクティック
「カイロプラクター」または「カイロプラクティショナー」の手技によって骨格のゆがみを調整し、自然治癒力を高め、不調の改善をはかる民間療法。健康保険の対象外。
マッサージ
あん摩マッサージ指圧師(国家資格)によるものや、その他さまざまな種類の民間療法がある。つぼや経絡を「押さえること」「撫でること」で刺激し、血液や体液の循環促進、筋緊張をほぐし、疲労回復や体調の改善をはかる。
ベストパフォーマンスを続けるために
ケガや故障のときだけではなく、普段の健康な状態のことも知ってくれている”かかりつけ”があると、何でも相談できて安心です。優れた芸術家の中には、普段から身体のメンテナンスを意識して、カラダのケアやトレーニングなどの専門家のところに定期的に通っている人もいます。また、自分自身でもカラダに目を向けてセルフチェックできるよう、カラダの構造やセルフコンディショニング法、ケガのメカニズムなどについて学んでおくことも大切です。これらによって、ケガの原因になる筋肉のこわばりなどを早く見つけ、対処できれば、大きなトラブルを回避できるのです。
また、土日に公演が多い芸術家にとっては、稽古場や劇場の近くで休日診療ができるところを調べておくと、いざというときも安心ですね。
制作:NPO法人芸術家のくすり箱 監修:瀬尾理利子(横浜市スポーツ医科学センター 整形外科医) [2009.9作成]