芸術家のくすり箱は、ダンサー・音楽家・俳優・スタッフの「ヘルスケア」をサポートし、芸術家と医師・治療師・トレーナーをつなぐNPOです。
  • TOP
  • 芸術家のくすり箱とは
  • セミナーに参加する
  • ヘルスケアサポート
  • 実践!芸術家のヘルスケア

私流ヘルスケア:谷口あかりさん(女優・歌手)

知ることで身体は変わる

元劇団四季で主役を演じていた女優・歌手の谷口あかりさん。10代の頃にバレエ留学をして、帰国後バレエダンサーとして活躍した経験もあり、身体に対する高い意識をもっていらっしゃいます。その知識はどのようにして身につけたのか、舞台の仕事にどう活かしているのか、お話をうかがいました。

自分に必要なケアを選ぶ

──谷口さんはいま、フリーランスで女優と歌手をやっていらっしゃいますね。どちらも体が資本の職業であると思うのですが、普段どんなことに気を付けていらっしゃいますか?

以前は、体が疲れてきたなとか、どこかが痛いなとか思ったとき、よくマッサージに行っていましたが、姿勢療法というのを勉強してからは、マッサージ等は一切行かなくなりました。

姿勢療法に出会ったのは、劇団在籍中に体がきつく、ストレスもあって眠れなくなった時期です。なにか受けたいなと思っていたときに、たまたま情報誌でみつけていってみたら、受けたその日から眠れるようになったんですね。

姿勢調整を受けた後は、代謝がものすごくよくなって、身体全体の調子がよくなります。痛い部分だけではなく、自覚のない所もよくなるので、例えばお通じが良くなったりとか、歌う時もすごく息が吸いやすくなったりします。本来、身体ってこんなに軽いものなんだなというのを体感できる感じです。

しばらくして劇団を辞める時、その姿勢療法のことを思い出して、先生に勉強するにはどうすればいいですか、ときいて姿勢調整士という資格をとりました。私と同じ悩みを持つ人や繰り返し同じ怪我をしている仲間がいたので、いずれ周りの人の助けになればいいなと思って。

──姿勢療法というのは、具体的にはどういうものですか?

カイロプラクティックに近いものです。24個の背骨の中にいろいろな神経が通っているので、ひとつずれるとどこかの神経が圧迫されて、足とか、内臓とか、そのねじれた部分に不具合が出てくる。姿勢がよく、背骨がきちんと並んで神経の伝達がうまくいく状態だったら、その先に問題は起こらない、という考え方です。

骨と神経と筋肉のつながりを勉強していくと、最小限の力で背骨のゆがみも治せるし、そこから出ている神経による症状も改善されるんです。例えば、ここが凝るからここをマッサージしよう、ではなくて、元になるところを調整すれば痛みが消えたりするんです。身体のしくみがわかると、頭が痛いから痛み止めを飲む、ということもなくなり、無駄なものを省けるんだなと思うようになりました。

──劇団四季では公演数も多く、主役でもあって忙しかったと思いますが、どんなケアをしていたんですか?

劇団にスポーツマッサージ治療院が併設されていたので、そこに行く人も多かったと思います。そこは捻挫のような急性の症状にも対応してくれていたので、そこに治療に通うことが多かったですね。鍼、灸、マッサージ、電気治療など、何でもやってくれるところでした。

トレーニングルームも劇団にありました。使う人は使うけれど、使わない人は一切使わない、みたいな感じでしたね。私は暇さえあればずっと筋トレしていましたけれど。

私は身体が柔らかい分、まっすぐ保つのに体力を使っちゃうんです。踊っている分には楽なんですが、普段芝居をする筋肉とは別で、ちゃんと身体を保てるものがないといけないなと思って、自己流ですが、鍛えるようにしていました。

食事のこと・声のケア

──劇場にいる時間が長かったと思いますが、食事はどうされていましたか?

私は舞台のときは全然食べないので、本番期間が始まると、朝ごはんを食べて劇場に行って、本番の合間にチョコレートをつまんで、疲れて帰ってそのまま寝てしまう、みたいな毎日でした。

──ではウェイトコントロールみたいなことは。

あまりしていませんでした。気を付けなきゃいけないなと思った時は、野菜を中心にとるようにして、それでも絶対甘いものは我慢しない、というところは守っていました(笑)。

バレエ団にいるときは、すごく我慢していたんです。それがストレスになって逆に太ってしまい、食生活も乱れていました。それで、「我慢するのをやめよう」と決めたら、体重が落とせたので、そういうものなのか、と。気にしないようにしたら意外と体重管理も体調管理も楽にできるようになりました。

──声を使う方は風邪を絶対ひけないですよね。その対策はどうしていますか?

普段はマスクをしたり、家にいるときは常に加湿機と空気清浄機をいれて、あとはおしゃべりが大好きなんですが、なるべくしゃべらないようにするとか、電話は控えるとか。そのぐらいです。 あとはプロポリス系の飴や、マヌカハニーとか。最近多いのは、ボイスケアのど飴というものがあるんですが、よくお客さまからもいただきます。


ストレスとの向き合い方

──ダンサーから歌手へというのは、簡単なことではないですよね?

死にそうでしたね(笑)。踊りたくて入った劇団四季ですが、やはり四季にいるからには、歌う役を望みました。でも、最初に歌の役をもらった時は本当についていけなくて、ストレスで過呼吸を起こすくらい、追い詰められました。3年くらい経って、ようやく踊らなくてもストレス発散ができるようになりました。

──そんな追い詰められた時のリラックス法は?

愛犬(いずれも男の子)たちは、空気を読んで接してくれる、癒しの源。

犬です! チワワの男の子が2匹いるんですが、もう可愛くて。すごく、私の気持ちに気づいてくれるというか。落ち込んでいるときはすりすり寄ってきて、じっとそばにいてくれたり、イライラしてるときは近づいてこないとか(笑)。空気を読んでいますよね。

あとは、睡眠が大事だなと思っています。アロマとかを取り入れるというのもありますが、それよりいっそベッドを変えちゃおうと思って、椎間板を寝ている間に元の状態に戻してくれる「ヘルシーライン」という固いマットを、ちょっとがんばって買いました。普通のベッドだとどうしてもへこんできたり柔らかかったりして、悪い姿勢でもそのまま沈んでいって、朝起きたら身体が痛くなるので。

このマットは椎間板を伸ばしてくれるので、朝起きるとすごく身体がすっきりするんです。忙しくて治療に行けなくても、家で何とか通常の状態に戻せるのは、大きいですね。


愛用の枕。かまぼこ型で、首に当てて使用。

枕も替えました。普通の枕は四角くて、首が必然的に前傾するので、首の筋肉が寝ている間に突っ張って疲れちゃうんですね。首の本来のカーブに合わせた半月型の枕にして首に当てて寝るようにしました。今はそれでないと眠れないです。旅公演の時はバスタオルで代用することもありますが、長期ならこの枕を持っていきます。

身体のことを勉強してわかったこと、思うこと

──現在は劇団に所属せず完全にフリーで、ご自分でスケジュール管理もされていますが、予定を組むときの優先順位として、身体のケアも大事になりますね。

そうなんです。そのケアをしにいく時間がなかなか取れなくて......。ただ、自分が身体の勉強をしたからこそなんですが、普段の生活の中でこういうことしたら身体に悪い、というのはわかるんです。自分の癖もわかっている上で、それをしないように、ふとした時に自分の姿勢を鏡に映してみて、今こういう状態になってるんだな、じゃあ、こっち側のストレッチだけしておこう、とか。ちょっとした対処はできますし、やみくもにマッサージしてもよくはならないと思うので、勉強したのがすごく役に立っているな、と思います。

テレビや雑誌でも、ストレッチで腰痛を何秒で治すとか、いろいろありますが、だいたい必ず左右均等にしていますよね。でも身体が歪んだ状態なら、それに合った片側の調整も必要で、両方同じようにするのでは意味がない。そういうのがわかって、テレビとかの情報を見ると、このストレッチは使えるな、こっちだけやろう、という風に、自分で考えられるんです。だから舞台に立つ人も、まずちゃんと知識を持たないと、自分の身体を守れないんだな、というのはすごく思います。

──勉強した結果、踊る前のウォーミングアップやクールダウンで、増やしたものはありますか?

増えたものはないです。逆に減らしたかもしれない。私はどちらかというとやりすぎてしまうほうだったので。それこそバレエだけやっていて、身体の知識を知らなかったときは「とりあえず柔らかくしよう」というやり方でした。

勉強してみると、これ以上のストレッチは必要ないとか、ただ長時間やっても意味がないとか、そういうことはわかるようになります。踊るための準備はそんなに伸ばしすぎる必要はない、身体をあたためればいい。逆に終わった後は、緩めてあげることは必要だけど、ウォームアップはすごく減りました。

自分が勉強していろいろなことがわかったり気づいたりできたので、将来的に自分がプレイヤーでなくなり、踊りを教えたりとか、芝居を教えたりとかする立場になった時、その教えている人たちの身体を壊さないためのアドバイスもしていきたいと思います。やはり才能がある人が身体をいためてつぶれていくのは、本当にもったいないなと、劇団にいるときも思ったので、そういうふうに役立てていければと思います。

谷口あかり(たにぐち・あかり)
女優・歌手。9歳よりクラシックバレエを始め17~20歳 ロシア国立ボリショイバレエ学校留学、2004.4~2007.5 NBAバレエ団、2007.9~2013.12劇団四季に所属。劇団四季在団中の主な出演作品「Cats」シラバブ、ランペルティーザ、「春のめざめ」ベンドラ、「人間になりたがった猫」ジリアン、「コーラスライン」ディアナ、マギー、「サウンドオブミュージック」リーズル、「マンマミーア」ソフィー、「アスペクツオブラブ」ジェニー、「ジョン万次郎の夢」キン。2014年、姿勢セラピストの資格を取得。


谷口あかりさんオフィシャルブログ

谷口あかりさん主演公演情報
 ブロードウェイミュージカル『VIOLET』(日本初演)
 [日時]2016年5月12日(木)〜16日(月)
 [会場]ラゾーナ川崎プラザソル
 [詳細]詳細は谷口さんブログ

制作:NPO法人芸術家のくすり箱 [2016.2作成]