芸術家のくすり箱は、ダンサー・音楽家・俳優・スタッフの「ヘルスケア」をサポートし、芸術家と医師・治療師・トレーナーをつなぐNPOです。
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伝統芸能実演家の職業病とワンポイントアドバイス

能楽師のアンケートと、能楽・歌舞伎のインタビューから

 2007年に実施した当調査の第2回目が2012年に行われ、初めて伝統芸能分野の方が対象となり、アンケート調査には公益社団法人能楽協会所属の能楽師の方に、グループインタビューはさらに歌舞伎俳優の方ご協力をいただき、「芸術家の健康に関する実態・ニーズ調査」が完成しました。数々の興味深いデータの中から、いくつかをご紹介します。

怪我・故障は「ひざ」と「腰」に集中

 芸術活動による怪我・故障の治療経験者は44.1%で、治療しないまでも不調を抱えた経験のある人は52.9%です。その部位は、「腰」「ひざ」が多くなっています。怪我・故障の主な原因は、「疲労」「使いすぎ」と慢性的な原因が約4分の3にのぼります。特に「その分野の活動で身体に悪いと思うこと」として「正座」「片膝立座位」をあげる人が多く、こうした現象の原因だと考えられます。  怪我や故障などの際に困ったこととしては、「快復に向っていても、正座をすると悪化してしまう」「仕事しながらだったのでリハビリのみに専念できず治りが遅かった」等、代わりをたてにくい実演家の状況を反映しています。


 また、パフォーマンス・技術向上のために知りたいこととしては「筋力・体力維持・老化防止法」「肩がこらない方法」など身体に関することのほかに、「他者の動作・所作」「稽古舞台に関する情報」「指導を受けやすい環境」などの回答もみられます。

芸能を理解した医師や治療師と連携を

 実演家の健康管理は各自にまかされていることが多いと思いますが、実演家は身体を表現の媒介とし、代替のききにくい立場だからこそ、その活動の特性をよく理解した医師や治療師、トレーナーの専門的サポートが欠かせません。世界ではこの30年くらいの間に、「芸術医科学」の研究と実践が進んできましたが、日本固有の動作特性をもつ伝統芸能分野でも、当事者と医科学関係者との連携を広げていくために、こうした調査が一つの きっかけになれば幸いです。




ワンポイントアドバイス

  ひざの故障を軽減する簡単筋トレとストレッチ
〜長く活躍するために〜


水村真由美 お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科准教授/芸術家のくすり箱理事

伝統芸能の実演家は、長時間の正座や片ひざ正座の姿勢などにより、ひざの故障を抱える人が多くみられます。また、伝統芸能は、芸術家としてのキャリアが長く、加齢に伴う身体機能の低下とも闘う必要があります。  ひざの周りには、たくさんの筋肉がありますが、主に太腿の前側にはひざを伸ばす大腿四頭筋、後ろ側にはひざを曲げる大腿二頭筋や半腱様筋があります。「老化は脚から」という言葉がありますが、この時の「脚」は、大腿四頭筋の筋力低下を意味します。その対策として、簡単な筋トレとストレッチをご紹介します。しなやかでたくましい筋肉が、みなさまの舞台活動を支えます。

いすに座ったままできる筋トレ

 椅子に深く腰掛け、左右どちらかの太腿に手を当ててひざの前側に力が入るのを感じながら、ひざを伸ばします。この時、太腿の内側に力が入るよう意識します。次にひざを伸ばしたまま、脚全体を座面から少し浮かせて5秒ほど保ちます。休憩を挟みながら両側10回ずつやってみましょう(A)。ゆっくり行うことがポイントです。

畳でできるストレッチ

 筋肉や力が衰えるだけでなく、柔軟性も年々落ちていきます。筋肉が硬いと、ひざに負担がかかり、姿勢悪化の原因にもなります。太腿の前(B)や後ろ(C)を伸ばすストレッチは、練習の前後や自宅でくつろいでいる時など、「ながらストレッチ」でよいので、頻繁に行いましょう。ストレッチをするときは、自然な呼吸を意識して、全身の力を抜いて勢いや反動はつけず、ゆっくり行うことがポイントです。気持ちよいと感じるところで、その姿勢を30秒くらい保ちましょう。

 

※このページは、当団体 『芸術家の健康に関する実態・ニーズ調査』(2012.12発行)の結果広報ポスターを転載しています。