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私流ヘルスケア: 本島美和さん(バレエダンサー)

身も心もニュートラル & 軽やかに

新国立劇場のプリマとして、舞台はもちろん、広告のモデルや、バレエを通じたチャリティ活動など、幅広く活躍されている本島美和さん。お話をうかがうにつけ、知性とセンスを要する新作の主役に多く抜擢されるのが納得の、美しく聡明なダンサーだと納得。プロとしていかに集中し、リラックスするか、そして、いかに視野を広く持つか。その姿勢が垣間見えるインタビューです。

──新国立劇場では、クラシックからコンテンポラリーまで、さまざまなレパートリーがありますね。身体の使い方が違う振付を同時に踊るのは大変だと思いますが、普段特に気をつけていることはありますか?

 一度ケガをしてしまうと、元に戻すのにすごく時間がかかるので、なるべく怪我をしないように、ということをまず考えます。一番力を発揮すべき本番のため、練習ではクオリティを保てる範囲である程度力加減を調整したりもします。ちょっと無理が続いて集中力が切れたり、ずっとやり続けて疲労がたまったりすると、ケガにつながってしまうことがありますので。
 ダンサーはみんなそれぞれどこかしら痛みを抱えているものですが、そんな中で自分の痛みとか弱いところをどこまで自分で上手くつきあいながら進めていけるかというところがカギですね。
 バレエでは、リフトの失敗とか、人とぶつかるとか、アクシデント的なケガが起こることもあり得ますが、自分自身で痛めてしまうようなことだけは避けたいと思っています。

──なるほど、そうですね。

 メンテナンスのため定期的にマッサージに通うようにしています。リハーサルや舞台の動きは必ずしもシンメトリーではなく、例えば32回フェッテ(片足で同じ方向に連続回転)をやったら、どうしてもバランスが崩れてくるので、バランスを戻していかないと、ずれが深まってケガにもつながるんです。特に痛いところがなくても定期的に行って全身をみていただくようにしています。


──食事で気をつけていらっしゃることはありますか?

 そんなに気をつけている方ではないんですが、バランスよく食べることと、野菜をなるべく多くとるように心がけています。朝は玄米に変えてから、力も出ますし、結構調子がいいんです。昼はしっかり食べると眠くなっちゃうので(笑)、ちょっと買ったものをつまむ感じです。公演の時は夜もあまりちゃんと食べられないので、朝しっかり食べるようにしています。
 特別なサプリとかはとりません。そういうのはよく忘れちゃうのと(笑)、舞台当日に「あれを飲み忘れた」と、とらわれて気にしてしまうのがいやなんです。朝の玄米も、なければパンでも構わないし、「問題はそこじゃない」という気持ちでいるようにしています。

──舞台がある日は、食事や睡眠は変わりますか?

 本番の前はあまり食べられなくなるんですよ。夜本番の次の日に昼本番がある時は、公演後はテンションが落ちないので、あまり食べないでちょっとスープくらいにして、必要とあらばお酒を少しキュッと(笑)。食べるより寝る方をとります。
 本番の前日もあまり眠れないので、だいたい本番中は寝不足なんです。もう諦めて、そういうものだと思っている方が気持ちは楽ですね。楽屋の待ち時間でちょっとストレッチしているふりして昼寝したり(笑)。以前は寝ずに踊ることもありました。そうすると、あ、これでもできなくはないんだな、と思って気持ち的には逞しくなります(笑)。でも本当は、寝られるなら寝たいです。

──定期的なメンテナンスの他に、トレーニングは何かされていますか。

 ピラティスに行っています。色々やってみた中で、私には一番合いました。やり始めてから、こんなに身体を使っているのに、自分が知らない筋肉、管理しきれていない筋肉ってこんなにあったんだ、という気付きがすごくありました。
 いま通っているところの先生はバレエを昔やっていて、ケガをして苦労された経験からピラティスを始めた方なんです。いまでもバレエが好きでよく観に来られますし、今度バランシンの振付作品をやるとか、「眠れる森の美女」をやるとか、今度の振付にこんな動きがあって、という話をすると、ここが弱いからきついんじゃない、みたいな具体的な話もできるくらい、色々と振付の動きもわかるので、すごく助かっていますね。

──ピラティスの効果として、自分の動きが変わったことを実感しますか。

 ようやくわかってきました。以前は割と感覚で踊っていたんですが、感覚と勢いだけでは踊れなくなってきますし、もっと磨いていくには自分で身体の動きを理解していかないといけません。それに気づいたのもピラティスのおかげです。だんだんと、どこの筋肉がどうなってそう動くのか、色々と点と点がつながってきたかな。それを踊りに結びつけるのは、そう簡単ではないのですが......。バレエの技術と同じで、自分の身体の中も根気よく積み重ねていくしかないです。

──舞台だけでなく、他にも広告に出演したり、色々なお仕事をしていますね。

 ずっとこのまま踊れるわけじゃないですし、仕事のご縁がどう発展するかわからないですから、いただいた話はなるべく断らないでいこう、というスタンスでいるんです。 ずっと同じことばかりしていると、何かがとどまってしまう感じがするんです。だから色んなところに行って色んな仕事して、というのが自分のサイクルに合っている気がします。

──公演や指導で移動も多いと思いますが、移動って疲れませんか?

 疲れます!ですから行った先々で、スーパー銭湯的なお風呂を探します。ホテルのお風呂はとても狭いことが多いので、大きいお風呂に入って、身体のあちこちをゆるめるんです。一人でも行きますし、だいたいダンサーが何人かいると、近くにお風呂ない、って誰か言い出すんです。
 家でも結構湯船に浸かりますが、週に1回くらいはあえてお風呂に入りに行ったりもします。個人的には「庭の湯」がオススメです。炭酸水もできたし、スチームサウナも好きなんです。6時以降は半額くらいになるので、いいですよ(笑)。

──ご愛用のグッズはありますか?

 ストレッチポールです。リハーサルを見ているときに横に置いて、ももの外側とか、背中をゴロゴロしたりとか。ないときはそのへんにあるものでゴロゴロやったり、あとは何かしながらも手でどこかマッサージしていたりします。......今もお話ししながらずっとしてましたね(笑)。



──「芸術家のヘルスケア」として、やってみたいことはありますか?

 健康診断を受けたいです。あとは、ダンサー生命って割と早い段階で終わってしまうので、教える以外に、もうちょっとダンサーが、第二の職業や人生に行けるようになれたらと。そんなことに興味があります。

本島美和(もとじま・みわ)新国立劇場バレエ団プリンシパル。東京都出身。牧阿佐美、三谷恭三、豊川美恵子、ゆうきみほに師事。1992年豊川美恵子エコール・ド・バレエ、1997年橘バレエ学校を経て2000年牧阿佐美バレヱ団に入団、2001年新国立劇場バレエ研修所第一期生に。2003年より新国立劇場のシーズン契約ソリスト。2005年の新制作『カルメン』で初めて主役に抜擢され、情熱的な演技とピュアな魅力で喝采を浴びた。以後数多くの主役を務めている。のびやかな肢体と美しい容姿、華やかな存在感で広く注目されており、出演したCMでの演技力が評価され、ACC CMフェスティバルの演技賞を受賞。2006年に橘秋子賞スワン新人賞を受賞。2011年プリンシパルに昇格。


新国立劇場バレエ団公演情報 2014年4月19日〜27日『ファスター』『カルミナ・ブラーナ』
2012年のロンドン五輪の開催を祝して作られたビントレー振付作品『ファスター』(日本初演)に、本島美和さんが主演。

制作:NPO法人芸術家のくすり箱 [2014.3作成]