芸術家のくすり箱は、ダンサー・音楽家・俳優・スタッフの「ヘルスケア」をサポートし、芸術家と医師・治療師・トレーナーをつなぐNPOです。
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演奏家の職業病とワンポイントアドバイス

日本のプロフェッショナル・オーケストラ23団体のアンケートから

 公益社団法人日本オーケストラ連盟加盟の23団体の楽団員の方からご協力をいただいた、第2回「芸術家の健康に関する実態・ニーズ調査」。数々の興味深いデータの中から、いくつかをご紹介します。

  アンケート調査から
  専門家からのワンポイントアドバイス

演奏による怪我・故障経験者は67.9%

 演奏活動による怪我・故障の治療を経験した人は、67.9%。その部位(複数回答)は、「手・手指」「肩」「首」「腰」など、腰から上が多くなっています。「一番重症な部位」は、それらに「頭部(目、耳、鼻、口、のどなどを含む)」が加わります。
 怪我・故障の主な原因として、「疲労」(47.9%)、「使いすぎ」(39.4%)と慢性的な原因が9割近くを占めるのが、バレエや演劇分野とことなるオーケストラ分野の特徴です。

治療やリハビリ、内容と環境に苦労

   怪我や故障などの際に、どんなことに困ったかについて、最も多くあがったのは「完治しない・原因がわからない」「治療に不満(楽器演奏に理解がない)」「良い医師やトレーナーがわからない」など、治療面についてです。その他「休めない」という環境面、「治療費や施術費が高い」という声が多くあがっています。
 どこが良いか、何がきくか、仲間同士の口コミを頼りに、各自最良の方法を探している様子が調査からうかがえます。

■治療やリハビリで困ったこと(自由記述)


演奏家を理解した医師や治療師と連携を

 演奏家の健康管理は各自にまかされていることが多いと思いますが、オーケストラの楽団員の身体の負担や活動環境は、見た目以上にハードです。そして、それぞれ長い年月をかけて、楽器演奏に適した手や指、腕、口など身体のすべてを微細に調整してきています。だからこそ、その治療やメンテナンスには、演奏家のことをよく理解した医師や治療師、トレーナーの専門的サポートが欠かせません。オーケストラ界全体で、その連携を広げていくことが望まれます。
 芸術家のくすり箱では、この調査結果を、治療やコンディショニングに関わる専門家へ発信し、「演奏家のヘルスケア」の充実に努めてまいります。

  演奏家の手のトラブル予防!

酒井直隆 東京女子医科大学附属青山病院 整形外科・音楽家外来

意外に少ない腱鞘炎

演奏家の手の痛みと言うと、腱鞘炎がほとんどを占めると思われていますが、実際はそれほど多くはありません。ピアニストで23%、弦楽器奏者で30%程度です。腱鞘炎以外では筋肉痛、筋肉が骨に付着した部分の炎症(付着部炎)、関節痛が続きます。腱鞘炎、筋肉痛、付着部炎の筋肉と腱にかかわる痛みが全体の70%程度を占めますが、これらの痛みの予防策として効果的なのがストレッチ体操です。肘、手首、指を屈伸させるストレッチ体操を、練習前に行うと、障害の予防になります。ちょうど水泳やバレエを始める前に必ずストレッチ体操を行うように、楽器の練習前に習慣づけたいものです。

★ご参考:www.pain.musicmedjapan.com

もしも手が痛くなったら・・・

 演奏中にもしも手が痛くなったら、いったん練習を止めて様子を見ましょう。手がだるくて疲れているようであれば休憩中にリラックスを心がけると効果的ですし、すぐに弾かなければならない場合は薬局で売られている湿布を貼ったり、湿布剤の入った軟膏やスプレー式の薬を使うといいでしょう。しかし痛みがくり返し起こったり、長引く場合は専門医の診察を受けることをお薦めします。

 演奏家の手の障害の治療で大切なのが、練習を休まずに治療することです。骨折などでどうしても手が使えない場合でも、反対側の手の練習の機会と捉え、演奏に対する前向きな姿勢が必要です。最近は音楽家を専門に診療する医療機関も現れましたし、演奏家の障害の治療や予防に取り組む研究会も開催され始めています(音楽家医学研究会ウェブサイトに医療機関も紹介されています)。

 

※このページは、当団体 『芸術家の健康に関する実態・ニーズ調査』(2012.12発行)の結果広報ポスターを転載しています。