芸術家のくすり箱は、ダンサー・音楽家・俳優・スタッフの「ヘルスケア」をサポートし、芸術家と医師・治療師・トレーナーをつなぐNPOです。
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自分の感覚に集中する〜ピラーティスに基づくコンディショニング

集中して自分の感覚に気づく。中心が安定してこそ、確実な動きが生まれます。

アーティストの元気に迫るインタビューシリーズ第6弾は、バレエーダンサーのボディコンディショニングとして定着しつつあるピラーティスに注目。個人個人の状態を丁寧に把握し、きめ細やかな指導で信頼の厚い指導者、橋本佳子氏にうかがいます。

----ダンサーにとってボディコンディショニングとはどういう役割があるのでしょう?

 ダンス、特にバレエは、どうしても技術の評価や他との比較になりがちな世界だし、ボディによる表現なので、視覚的に個性や魅力があることが大事になってきますよね。
 最近、自身の元々のイメージを見失った状態で、猛勉強、稽古、リハーサルに励む方と多く接します。先のために今を焦る、それでは「表現」につながらないだけでなく、息が上がったオーバーワークにより、自分自身も壊れてしまいますよね。
 呼吸の技法とともに具体的にコンディショニングワークに集中することは、心身に落ち着きをとりもどします。自分の意識、感覚に気づき、身体の中心を安定させると、動きが確かになっていきます。
 『このようにしよう』という自分の意識を持った上で行動する。その原点に立ち返って、自分自身に目を向けて、自分を信じて、集中したお稽古に励んで欲しい。
 ダンサーのためのボディコンディショニングには、筋肉の強化とバランスを図る以外に、"心身の調子を整える"役目があり、表現者として大切な「基本の役割」があると思います。
 私自身、怪我をして、そして怪我や身体について勉強し、踊ることで収入を得るまで復帰したバレエダンサーとしての経験のなかで、英国でピラーティスをベースとしたボディコンディショニングに出会い、当時日本にはない方法・考え方だったのですが、その重要性を感じてのめり込んでしまいました(笑)。

----ダンサーのコンディショニングとしてのピラーティスは、どんな特徴がありますか?

『センタリング、意識の集中、コントロール、動作と呼吸の調和、反動を用いないなめらかな動き、正確な動き』が、考案者であるピラーティス氏の基本ルールですが、これを土台に訓練することは、立って踊るダンサーにとって、怪我を予防し自らに責任をもって踊ることにつながります。
 たとえば、意識を自分に集中して身体の中心を把握することから、確実な動きを生みだすことができます。"確実に"というのは、みな心身の条件が違いますから、"先生のように"や "あの高さに"のような視覚的なものではなく、"自分自身をコントロールできる"感覚的なものですね。"集中""中心の意識""安定した骨盤・コア"を土台に、全身を自由に確実に動かす感覚がわかれば、呼吸も乱れず本番前の不安や緊張も抑えられるでしょう。

----マットワークとマシンエクササイズについて教えてください。

 ピラーティス・エクササイズを行う際は、常に基本のルールをコーディネートする事が原則ですが、特にマットワークでは、カラダの重さを自身がコントロールすることで、軸の意識を高め、体幹の強化はもとより、全身へのエクササイズのバリエーションが多くあります。
 フロアワークと勘違いされがちなピラーティスのマットワークですが、本来は厚みのあるベッドフェースのマット上で行う、マシンを使用しない運動を指します。痛かったり冷たかったりする平面の固い床では集中できませんから、厚いマットでない場合は、着るものを暖かくしたり、クッションを用意したり骨に負担がかからないような工夫が必要です。
 マシンでのエクササイズはバネの抵抗力を利用します。マシンが体の重さを支え、バネにより負荷を軽減できるので、気をつけるべきところの意識をはっきりさせ、正しい動きを誘導してくれます。そして、ジャンプの踏み切り、着地の感覚なども養うことができ、筋持久力を強化する目的のメニューにも効果的です。

ダンサーに効果的なマシンエクササイズ例

マシンが自分の重さを支えてくれることによって、目的の動作の感覚がわかり、鍛えるべき筋肉にダイレクトに作用します。いずれも体勢を崩さずに骨盤を安定させることが重要。

【1】
マシンのバネによって、上半身の重さが支えられ骨盤を安定させる筋肉を働かせ腰に負担をかけずに上半身を後ろに反らせる練習。おしりとかかとの高さをかえることで股関節にも負担がかからない工夫がされている。

【2】
骨盤の方向を正しながら、重心の移動を行う練習。セラチューブの抵抗力で脚の重さを軽減しているので、軸を感じて正しいアライメントを保つことに集中でき、安定した感覚(技術)を養える。

----ダンサーとしてピラーティスを取り入れようという方にアドバイスをお願いします。

 時代の流れや流派などで、いろいろな指導法があると思いますが、"自分自身のセンター"を忘れないで、指導される内容を目で見て覚えるだけではなく、心と体で受け入れて取り組んでみてください。
 ピラーティスを行うときは"表現するパフォーマー"から離れて、素直に"受け入れる立場"になることが、意味あるコンディションニングになると思いますよ。


橋本佳子 ボディーワークス主宰/新国立劇場バレエ研修所ボディ コンディショニング講師。英国ロイヤルバレエスクール留学後、谷桃子バレエ団で舞踊家として活動。バレエ団在籍中、文化庁芸術家在外研修員として英国へ。バレエ教師、ボディコンディショニング研究家、舞踊学研究家、理学療法士で構成される「プロダンサーの総合的な身体管理、怪我からの復帰」に取り組むチームの下で研鑽、のちにチームの一員として活躍する。1990年世田谷区に専門スタジオ「ボディーワークス」を設立し、英国人パートナーのダレン・ヒンドリー氏と共に、日本のバレエダンサーに役立つ情報を提供、および個人の心身に対応する「ダンサーの為のボディコンディショニング」を指導する。

ボディワークス www.bodyworks.co.jp

制作:NPO法人芸術家のくすり箱 
[雑誌 『dance dance dance(DDD)』(フラックスパブリッシング発行)2008年5月掲載「私流ヘルスケア」を加筆転載しています。]