芸術家のくすり箱は、ダンサー・音楽家・俳優・スタッフの「ヘルスケア」をサポートし、芸術家と医師・治療師・トレーナーをつなぐNPOです。
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ドクターおすすめ・ダンサーのケア&トレーニング

自分の身体を知ってケアする

『芸術家のくすり箱』が"アーティストの元気の素"に迫るインタビューシリーズ。第3弾は、国立スポーツ科学センターのクリニックでスポーツ整形外科医を務め、新体操など芸術系スポーツの研究を専門とする瀬尾理利子先生にお話をうかがいます。

----瀬尾先生には、「芸術家のくすり箱」の健康相談等でもダンサーをみていただいていますが、"ダンサー"にはどのような印象をお持ちですか?

 踊りのことに一所懸命だけど、忙しすぎて身体のケアにはあまり気がまわっていないと感じます。動いたあとに、スポーツ選手ならインタビューをうけながらアイシングしているのをみたことがあると思いますが、ダンサーは稽古場の都合などで時間がなく、すぐに身支度して帰るのが当たり前のようですね。でも、とにかくまずアイシングするとか、アイスをつけたまま帰るとか、うまく考え方を変えていけたらと思います。身体を使って長く続けていこうと思うなら、自分の身体をケアしてあげるという方向に目を向け、そうすることでレベルをあげながら長く活躍してほしいですね。

----身体に目を向ける具体的な方法はありますか?

例えば、ケガとのつきあい方でいえば、痛みの最高レベル(想像でも)を「10」として、今日は「4」とか「5」とか、日記のように記録する方法があります。痛みがあってパフォーマンスに影響がでた時点で、原因を知り当面の対処(湿布や薬など)をするために病院でみてもらう必要はありますが、軽度であればその治療をしながら稽古をしてもかまいません。でも、痛みが「7」くらいになったら、要注意。他の治療や休むことなどどうするか判断する(相談する)というきっかけをもつことができます。ダンサーは疲労性骨折など、使いすぎや疲労がたまってくるために起こる障害が多いですから、痛みをなんとなく我慢し続けて、大怪我に発展させてしまわないよう、自分で状態を確認するこの方法はやってみてほしいですね。

ダンサーとして、知っておくべきことは?

応急処置(RICE処置)

捻挫や肉離れなど急性のケガがおこったとき、病院などにかかるまでに適切な応急処置を行うことは、障害を最小限にとどめ、復帰を早く果たすために重要です。ダンサーには、ぜひ正しく理解してもらいたいです。おかしいなと感じた程度のときにも、包帯を巻いたり、アイシングしたり、早めに処置してあげれば大怪我につながらないこともあります。

身体の軸をしっかり作る

どのスポーツでも同じですが、特にダンスは身体の軸が一本通っているのが大切ですよね。 軸を鍛えるため、ふたつのトレーニング方法をご紹介します。

 * おなかの奥の方の筋肉を鍛える【トレーニング1】
 * おしりの内側の足の付け根の中の筋肉を鍛える【トレーニング2】

これらは、体のブレや骨盤がずれたりするのをおさえるのに役立ちます。うまく使っていないと、腰を痛めたり脚の障害をおこす原因になるので、とても重要です。

【トレーニング1】
(1) 寝た状態で息を吐き、おなかをぺちゃんこにする。背中が浮かないように意識する。
(2) 上体を写真の位置まで、ゆっくり起こし、10秒キープ。この間もおなかをぺちゃんこにすることを意識することで、腹直筋(真ん中の大きな筋肉)ではなく、腹横筋や腹斜筋(腹直筋を押さえるまわりの筋肉)が働く。10回程度繰り返す。

【トレーニング2】
(1) 弱めのバンドを、動かす足にかけ、身体の外側に向けてゆっくりあげ、おろす。10回。 動作中、軸足は踏ん張るのではなく、上に引き上げて軸がぶれないよう意識する。
(2) 身体の内側に向けても同様。反対の脚も行う。

医療リハビリ用に開発されたゴムバンド。強度によって色の違いがあり、使途に応用がききます。手軽に持ち歩けるのも◎。

----普段のレッスンの中では鍛えられないのでしょうか?

 意識できている人は、レッスンでも鍛えられていると思いますが、目的の筋肉をときどき確認するとよいでしょう。レッスン前のストレッチの際、一緒にこの動作を2.3回反復して目的の筋肉を意識して、それからレッスンに入ると、一度意識された筋肉はそのあと使いやすくなるので効果的です。
 これまでの経験からすると、痛みをかかえながらパフォーマンスを続けている人には、実は体のバランス(筋力・柔軟性など)がとれていないことが原因だと気づいていないことが多くあると思います。この場合、痛みをとる治療だけでなく、レッスンとは別の身体を作るトレーニングも有効だということを知ってほしいです。これを教えてくれる人がまだ少ないこともありますし、トレーニングセンターにいくと、マッチョになるというイメージがあるかもしれませんが、「インナーを鍛えたい」などきちんと目的を伝え、マシンを使わない方法など教えてもらって活用するといいと思います。


「ケガや故障をしたときは、原因を理解して治療に取り組むのがベスト!原因が少しでもわかれば、治ったあともどうしていくべきかを考えられ、パフォーマンス向上につながります!」と、にこやかにお話される先生は、ケガなく思い通り自由に踊りたいと願うダンサーの強い味方でした。

■執筆

瀬尾理利子 国立スポーツ科学センタースポーツ医学研究部研究員/スポーツ整形外科医。研究テーマは新体操、器械体操、ダンススポーツなど、芸術系スポーツ選手の身体特性器械体操、空手の競技歴をもち、現在は国立スポーツ科学センターのクリニックにてオリンピック選手等の診察・治療を行う。

制作:NPO法人芸術家のくすり箱 
[雑誌 『dance dance dance(DDD)』(フラックスパブリッシング発行)2007年11月掲載「私流ヘルスケア」を転載しています。]