芸術家のくすり箱は、ダンサー・音楽家・俳優・スタッフの「ヘルスケア」をサポートし、芸術家と医師・治療師・トレーナーをつなぐNPOです。
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私流ヘルスケア:吉田都さん(バレエダンサー)

無意識でもよいポジションにコントロールできるようトレーニング

活躍するダンサーの元気の源を探り、みなさんにお届けする「芸術家のくすり箱〜私流ヘルスケア」もいよいよ最終回です。この最終回スペシャルに、ロイヤル・バレエ団、Kバレエカンパニーのゲスト・プリンシパルとして、観る者を魅了してやまない吉田都さんをお迎えしました。日本や英国、世界中から愛される、その可憐であたたかい安心感に包まれた踊りはどこから生まれるのか、誌面拡大でお届けします。

『ドン・キホーテ』【撮影: 木本忍】

----バレエダンサーならではのコンディショニングや体作りはどんなことをされていますか?
「ピラティスをしています。ロイヤルオペラハウスの中にピラティススタジオがあって、2人の先生が指導してくれます。ケガをしているときは別ですが、普段は週に2回、2時間程のペースが私にとってベストですね。必要に応じてマシントレーニングや水泳、マッサージなどもしますが、ピラティスを除けば、基本的には踊りながらコンディショニングしています」

----ピラティスを始めたきっかけは?
「スクール生の頃、どこだったか少し痛めたときに、薦められたのが最初です。でも、若い頃は良さというものがなかなか分からなかったんですよ。踊ることが何より大好きでしたので、トレーニングって退屈だなと思っていましたし、若さの回復力に任せてしまうところもありました。最初に行ったスタジオは、すでにピラティスやボディケアをよく知っている人が通っているようなところで、あまり詳しく説明してもらえなかったのもあるかもしれません。ピラティスって自分のなかの感覚で分かることが大切なので、最初はちょっと難しいかもしれません。私自身がピラティスが本当に良いなと実感できたのは、ここ10年くらいです。体に敏感なダンサーでも慣れるまでは難しいので、一般の方には大変ではないかと思いますが、イギリスだと、一般の方にもかなり浸透しています」

----吉田さんにとってのピラティスのよさ、魅力はなんでしょう?
「体の内側、コアの部分を鍛えていくことで、体の軸がしっかりとれ、とても自由に動けるようになれる、それを実感できることですね。ステージに立つと、客席からあおられるように、空気が後ろにぐっと押される感じがあるんですよ。スタジオでリハーサルしている時と舞台とでは、バランスが変わってしまうんです。それでも、自分の軸をまっすぐに保てるようコントロールできるということはとても大切ですね。それから、以前から腰を痛めていて、これはもう一生カバーしながら踊ることになるのですが、腰に負担をかけないように骨盤を安定させることができるのも、私にとっては大事なことです。でも、舞台で踊るときは、役に入り込みますから、『体をどう動かすか』ということは考えず、無意識で踊りますよね。そういう無意識の中で、自然に軸をコントロールできたり、腰に負担がかかりすぎないように踊れるのは、ピラティスのトレーニングを続けているおかげだと思います」

信頼できるトレーナーや医療スタッフが心強い味方

----調子がよくないと感じたときのケア方法はありますか?
「休むことも大切ですが、私はまずは、ピラティスですね(笑)。ピラティスは、筋肉を鍛えるだけではなくて、ストレッチやバランスを調整したりと、いろいろなことができるんですよ。踊っているだけではなかなか気がつかない左右のバランスの崩れがわかって調整できたり、調子がおかしいなと思ってピラティスを始めると、身体がすっきりしたりするので、時間が足りなくても、集中して部分的にやることもあります。先生が一人ひとりを診ててくれるので、ほんのわずかな時間でも体が変われるんです」



「いろいろな使い方ができるストレッチポールは、家にも稽古場にも常備。固まった体をほぐします」(上)。「ピラティススタジオにあるマシンすべてがお気に入り!特に体幹に効くマシンは欠かせません」(中、下)。モデル:ピラティススタジオ A・CORE シニアトレーナー 桜井恵美さん

----痛みがあるときに休むか、カバーしながら続けるかの判断はどうされていますか?
それはフィジオ(理学療法士)ですね。痛みが出た時点でバレエ団(ロイヤル)にいるフィジオに相談します。怪我をしているときは、恐る恐るやっていて『もっと大きな怪我になるのでは?』と、とても不安になりますから、このままやっていたらどうなるかとか、ここまでなら大丈夫とか判断してくれる彼らの存在は、本当に心強いです。普段から私の体の状態をよく知っているフィジオが大丈夫と言ってくれると、本当に安心して思いっきり踊れるんですよ! もちろん必要があるときには、専門のドクターに診てもらいます」

----愛用のコンディショニンググッズは何ですか?
「まずストレッチポールです。稽古場にも日英両方の家にも必ず置いてあって、いつでも使えるようにしています。あとは、ピラティスで使っている小物をよく使っています」

----食事で気をつけていることはありますか?
「私の場合は、体が欲しがるものを何でもいただくようにしています。甘いものやスナックなど、体にちょっと悪いものも、自分にご褒美というときにあげたり(笑)。バレエ団のダンサーたちをみていても、食べない人は、体力的にも持ちませんし、そうするとケガにつながることもあって、ダンサーとして続かないという印象を受けます。しっかり踊るためにも、たんぱく質を中心に、食事のなかできちんと栄養が摂れるようにと思っています」

----最後に、トップダンサーとして輝き続けているエネルギー源はなんだと思われますか?
「バレエが大好き!ということですね。本番があるからこそ、がんばれます。何をするにもバレエのため。何かを観たり、聴いたりするのもバレエに生きるからです。お稽古も大好きで、本当はずっと踊っていたいと思うのですが、体を休めるということも、長く踊り続けるためには必要なことなので、無理をしないように心がけるようにもなりました。とにかくバレエがすべてのエネルギー源です!」

吉田都(よしだ・みやこ)東京都出身。9歳でバレエを始める。1983年ローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップ賞を受賞し、イギリスのロイヤル・バレエ・スクールに入学。1984年にサドラーズウェルズ(現バーミンガム)・ロイヤル・バレエ団に入団し、1988年にプリンシパルに昇格。1995年にプリンシパルとしてロイヤル・バレエ団に移籍。現在はロイヤル・バレエ団とKバレエカンパニーのゲスト・プリンシパル。1997年に芸術選奨新人賞、2001年に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。また、2004年にユネスコ平和芸術家に任命される。2007年紫綬褒章受章、12月、大英帝国勲章(OBE)を受章。著書に『MIYAKO』『吉田都 終わりのない旅』。

【撮影協力:ピラティススタジオ A・CORE】吉田都さんがシニアアドバイザーを務めるスタジオ
東京都港区南青山5-5-2 3F (東京メトロ表参道駅徒歩1分) [TEL] 03-5468-0475 [URL] http://www.a-core.net/ 

制作:NPO法人芸術家のくすり箱 
[雑誌 『dance dance dance(DDD)』(フラックスパブリッシング発行)2009年3月掲載記事を転載しています。]