芸術家のくすり箱は、ダンサー・音楽家・俳優・スタッフの「ヘルスケア」をサポートし、芸術家と医師・治療師・トレーナーをつなぐNPOです。
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私流ヘルスケア:下村由理恵さん(バレエダンサー)

コンディションを感じてコントロール

芸術家の元気を応援する『芸術家のくすり箱』が、活躍するアーティストの元気の源に迫るインタビューシリーズ第5弾。フリーのバレエダンサーとして、国内はもとより海外のカンパニーからも招聘され、主役を務めて飛び回る下村由理恵さんの登場です。

【撮影:小川智恵子】

----10代からフリーで活躍されていますが、フリーのバレエダンサーとして必要なもの、心掛けることはありますか?
「フリーランスはゲストとして招かれるわけですから、リハーサルでも毎回きちんとできていなければなりません。作り上げる過程をみなさんは知らず、できて当たり前で出ていかなければならないのです。そういう意味ではコンディションのキープが大変です。多少無理がかかってもしっかりやらなければならない場面に備え、責任をもって、普段のお稽古で身体のメンテナンスや鍛えることまでしておかなくてはなりません。カンパニーに属していると、先生方もずっと見てくれているので、『今日は疲れているから仕方ないね』と大目にみていただけることがありますが、フリーランスは、失敗ひとつではじかれる可能性があるわけです。でも、『期待されている以上の結果を出さなければ』という環境があったから、ダンサーとして鍛えられたと思います。カンパニーに属さず、いろいろな取り組み方に参加していきたいと思っていたので、それにやりがいを感じたんですね。そのぶん、『やった!』という感動に出会えたとき、最高に幸せなんです」

----長く活躍し続ける中で変化していることはありますか?
「若いときは無理が利いてしまうので、例えば、動く前のストレッチをさぼっても身体がいうことをきいてくれるのですが、年齢を重ねると思い通りに身体が動くまでに時間がかかるということがあります。ですから、若い方と一緒にレッスンをするとき、同じ調子でやると負担がかかることがあるので、自分のコンディションに合わせてコントロールしてやるということが大切になりました。以前は、いつも全力でないと先生に失礼だと思いましたが、今はコントロールしないとケガにつながってしまうので、舞台でよいものをやるためにはそうする勇気も必要なのです。コントロールしながらリハーサルをするということは、演出家や振付家とも信頼関係ができてこそだと思います。日々の取り組み方から、本当に時間をかけて築いてきたものですね」

----食事で気を付けていることはありますか?
「食べないと体力も集中力もなくなりますから、しっかり食べています。本番前で絞りたいときには、夜は食べないようにしますが。気を付けているといえば、本番の10日前ごろにしっかり食べることです。この頃は、踊り込んで疲れがピークに来る時期で、食欲も落ちてしまうのですが、ここでしっかり身体を作らないともちません。『食欲が落ちてラッキー! 痩せられる』という方もいますが、それをやっていては、ケガの原因になってしまいます。1週間前からは、また少し抑え、本番1、2日前はまたしっかり食べてエネルギーを蓄えるというサイクルが、本番に向けてちょうどよいサイクルです。失敗を繰り返して見つけた私なりの方法ですね」

スチロールの円柱(左端)は、ストレッチポールの代用。軽くてコンパクト。右奥のコロコロは、マッサージだけでなく、腹筋トレーニングにも利用する。大き目のスーパーボールは足裏はじめ全身のマッサージに調度よい硬さ

バスタイムのお供。(左上から右回りに)ヒマラヤンルビーソルト(ネパール産バスソルト)、マッサージオイル(オリジナルの調合)、シアバター(ロクシタン)

----お気に入りのヘルスケアグッズを教えてください。
「舞台の仕事は、一発勝負でやり直しがききません。そして、何千人もの方が、舞台上の私ひとりを見てくださるプレッシャー。そこにかける集中力・精神力は大変なものです。自分に余裕があってコントロールできる状態にないと、空気に呑まれてしまいます。そこで、心に余裕を持つために、どんなに忙しくても、積極的に身体も心もほぐしてリラックスする時間を作るようにしています。コロコロマッサージやストレッチポール代わりのもの、スーパーボールは、普段も地方へ行くときもいつも持ち歩いています。リハーサル中、人が踊っているのを見ながらも、ストレッチだけでなく、コロコロ転がす、揉む、さする(笑)。お風呂でくつろぐのもリラックスにはかかせません。マッサージオイルはマッサージだけでなく、塗ってからお風呂に入ると汗をたくさんかけるので、そういう使い方もします。普段はカイロやマッサージに通うより、自分の手でまめにマッサージしていくのが好きなので、こういうものは欠かせませんね!」

下村由理恵(しもむら・ゆりえ)9歳より福岡の川副バレエ学苑にてバレエを始める。1982年小林紀子バレエアカデミーに入所、翌年同バレエ団入団。85年よりフリーとして活動。1981年第4回モスクワ国際バレエ・コンクールジュニア部門にて銀賞受賞はじめ、数々の受賞歴をもつ。90年に文化庁派遣在外研修員としてバーミンガム・ロイヤル・バレエ団にて研修。その間英国スコティッシュ・バレエ団に招かれ、『ジゼル』『白鳥の湖』等に主演。92年に同バレエ団とプリンシパル契約、93年からはゲスト・プリンシパル契約し、現地での高い評価を得て97年からはパーマネント・ゲスト・アーティストとなる。現在、日本バレエ協会主催公演はじめ国内はもとより海外のカンパニーからも主役で招聘される名実ともに日本を代表するバレエダンサー。

制作:NPO法人芸術家のくすり箱 
[雑誌 『dance dance dance(DDD)』(フラックスパブリッシング発行)2008年3月掲載記事を転載しています。]