芸術家のくすり箱は、ダンサー・音楽家・俳優・スタッフの「ヘルスケア」をサポートし、芸術家と医師・治療師・トレーナーをつなぐNPOです。
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水分補給と熱中症

水は命のもと

運動中に水を飲む習慣は、だいぶ定着してきました。ダンススタジオでも、レッスンの合間に水を飲むダンサーの姿は多く見られるようになりました。でも多くの人が、水を飲むのは、汗をかいたときだけと思ってはいないでしょうか?私たちの身体の約60%は水分です。身体の水分が失われた状態(脱水)では、体力も低下し、普段行っている運動も相対的にきつくなるため、疲労が増してしまうのです。水をしっかり摂取して、体内の水分量を維持することは、良い芸術活動を行う上でも大変重要です。

熱中症を知ろう〜重篤なものは死に至る

時には、暑い場所で練習や本番の舞台を行わなくてはならない状況もあるでしょう。そんな時、過度な発汗や脱水のまま運動を続けると熱中症になる危険性が高まります。熱中症とは、暑熱環境下で起こる以下のような障害の総称です。

熱疲労

脱水によって起こる症状で、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などが起こります。これが一番起こりやすい症状です。暑い環境で練習中に頭痛が起きた場合には、熱疲労を疑ってよいでしょう。

熱失神

脱水に伴う体温上昇を抑えようと、皮膚表面の血管が拡張することによって、血圧が低下し、脳への血流が減ることによっておきる症状です。顔面蒼白、呼吸数の増加、めまい、失神などが起こります。

熱痙攣

汗をたくさんかいているにもかかわらず、水だけを補給して、血液中の塩分濃度が低くなったときに起こる、脚、腕、腹部の筋肉の痙攣です。

熱射病

過度な脱水により体温が上昇し、中枢機能に異常が起きた状態です。意識障害が特徴で、死亡率も高くなる恐ろしい状態です。

賢い水分摂取を!

喉の渇きを感じる時には、すでに脱水が始まっていると言われます。喉の渇きを感じないよう、こまめに水分を摂取することが大切です。身体から失われる水分は、汗のように目に見える水分だけでなく、不感蒸泄と呼ばれる目に見えない水分もあります。ですから、汗をたくさんかいていなくても、運動中は水分摂取を怠らないようにしましょう。夏季や湿度の高い環境での運動中は、水分摂取の重要性はさらに高まります。運動前から水分を摂取し、運動で失われる水分を事前に補充するとともに、時間を決めて10〜15分毎には水分休憩を取りましょう。

どんなものを飲めば良い?

汗で水分が失われた場合に、水だけを大量に摂取すると、熱痙攣などが起こる危険性がありますので、発汗が激しいときは、塩分を含んだ飲料を飲む必要があります。また激しい運動をしている時は、運動のためのエネルギー源である糖質も含んだ飲料が効果的です。一般に市販されているスポーツドリンクは、運動中に水とともに失われる物質を考慮して作られていますので、これらを2〜3倍に薄めて、カロリーのとりすぎを気にせずにどんどん飲むとよいでしょう。また吸収をよくするために冷やしておくこともお勧めです。

体重が減って喜んではいけない!

練習後に体重を測って「痩せた」と喜んでいる人はいないでしょうか?それは全くの誤解です。短時間の体重の変化は、ほとんどが体液の消失です。練習後の体重減少は、ほぼすべてが汗や目にみえない水蒸気による身体からの脱水とみて間違いありません。体重が減っているときは、「脱水を起してしまった」と驚いて、急いで水分補給をしましょう。運動前後、あるいは運動中に飲む水分の量は、「運動前と後で体重が変わらない」ことがひとつの目安となります。

熱中症の予防方法

日本体育協会がまとめた熱中症予防8ヶ条を紹介します。
これらを頭に入れて、暑熱環境でも安全かつ快適に芸術活動ができるよう心がけましょう。

1. 知って防ごう熱中症

熱中症は原因があります。 本紙をよく読んで 原因を回避する方法を知りましょう。

あわてるな、されど急ごう応急処置

本紙下段「もし熱中症になってしまったら?」を参考にして下さい。

暑い時無理な運動は事故のもと

暑い時は、普段ラクに感じる運動も、相対的にキツイ運動に変わります。暑い日の練習はいつもより軽めに済ませましょう。

急な暑さは要注意

急に暑くなった日が熱中症の注意日です。暑さに慣れていない身体は熱中症になる危険が高くなります。

失った水と塩分取り戻そう

汗をなめてみてください。しょっぱいのは塩分が含まれているから。身体にとって、水と同様、塩分もとても大事な機能をもっています。

体重で知ろう、健康と汗の量

体重の減少は脱水の目安です。練習前後で体重が変わらないように水分を摂取しましょう。

薄着ルックでさわやかに

通気性のよい衣服で練習をすることは熱中症予防につながります。

体調不良は事故のもと

体調が悪いときは、熱中症にかかる危険性も高くなります。その日の体調によっては、練習を休むことも体調管理につながります。

もし熱中症になってしまったら?

十分に注意をしていても、夢中になって踊ったり演奏したりしているうちに、軽い熱中症に陥ってしまう可能性はゼロではありません。もし熱中症が疑われる症状が出たら、まず涼しい場所で衣服をゆるめて寝かせて水分補給を十分にします。また足を心臓より高い位置において足や手を末端から中心部にむけてマッサージしてもよいでしょう。
吐き気や嘔吐、症状がひどい場合には、直ちに病院に搬送しましょう。意識障害などがあり、熱射病が疑われる場合には、救急車を呼び、到着するまでの間に、冷却処置も行います。首、脇の下、太もものつけ根など、大きな血管が皮膚の表面近くを通る場所を冷やしたり、全身に水をかけたり、口に含んだ水を霧状にして吹きかけて、周りから扇ぐことにより気化熱で冷却します。

まずは、適切な水分補給を!

熱中症は、軽い症状が起きた時点で、適切に水分や塩分を摂取し、身体を休め、体温上昇を防ぐ対処をすることによって、重症化を防ぐことができます。まずは、練習中の適切な水分摂取を心がけましょう。

制作:NPO法人芸術家のくすり箱 文:水村真由美(お茶の水女子大学大学院准教授) [2010.6作成]