芸術家のくすり箱は、ダンサー・音楽家・俳優・スタッフの「ヘルスケア」をサポートし、芸術家と医師・治療師・トレーナーをつなぐNPOです。
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これで差がつくクールダウン

演技終了から次の演技への準備が始まる

踊りや演奏、演技などで身体を動かす前に、ウォーミングアップやストレッチを行う芸術家は増えてきたように思います。
しかし・・・身体を動かした後はどうでしょう? すぐに座りこんではいないでしょうか? 身体を動かす前のウォーミングアップやストレッチと同じように、身体を動かした後も、十分なクールダウンを行うことが大切です。練習や舞台が終わったら、もうこれから身体を動かさないので、特に何もしなくてもよいような気になりがちですが、そうではありません。クールダウンは、その日に使った部分をストレッチでよく伸ばす、あるいは軽く身体を動かすことによって、翌日の疲労や筋肉痛を軽減するという重要な役割があるのです。

急に動きを止めない

車の運転を考えてみてください。車が止まる時、急ブレーキをかけると乗っている人にも車にも負担がかかります。身体も同じことです。今まで激しく身体を動かしていたのに、急に演技を止めて座り込んでしまうのは、身体に良いとはいえません。基本的には、徐々に活動レベルを下げていくようにします。踊りでも演奏でも、練習の最初は、小さな、簡単な動きから始めるはずです。急に跳躍をしたり、一番難しい曲を演奏する人は少ないでしょう。演技の終わりも同じ事が必要です。最後は、徐々に楽な動作へと変えていき、できたら演技を止めると同時に座りこむのではなく、最後は軽く歩くなどして、全身を使うのも良いでしょう。

動かした筋肉をしっかり伸ばす

徐々に軽い動きをして、最後に全身を使って歩いたら、終わり・・・ではありません。その後は、今日の練習や演技で使った筋肉をよく伸ばしましょう。基本的には、よく動かした部分の筋肉を1分程度気持ち良く感じるところまで伸ばして、その姿勢を維持するようにします。また動かしていないと思っている部分も、演技中の姿勢保持などで疲れている可能性があります。ですので、基本的には全身をまんべんなくストレッチすることが大切です。

ストレッチで危険信号を察知する!

ストレッチは、筋を伸ばして筋肉痛や筋疲労を軽減するだけでなく、使い過ぎによる怪我に結びつく痛みを察知する良い機会です。練習の直後に行うストレッチで、筋肉に痛みや違和感を感じる場合は、ひどい筋肉痛や疲労だけでなく、使い過ぎによる怪我につながる負荷がかかっていて、炎症をおこしている可能性も考えられます。その場合には、演技後に、氷嚢やアイスパックなどで痛みのある部分を冷やすことが、怪我の重症化を防ぎます。練習後にアイシングができるよう、携帯用の氷嚢やアイスパックを常備しておくことも大切です。一流の野球選手が練習後にグローブの手入れを丁寧に行うように、芸術家も自分の商売道具である身体を、練習や本番後に丁寧にケアすることが、より長く、より素晴らしい芸術活動を続けることにつながります。

クールダウンにおすすめのストレッチ

クールダウンにおすすめのストレッチの例を紹介します。
それほど身体を動かしていないと思っても、最低限この程度のストレッチは演技後にするようにしましょう。

椅子に座り、片腕を上げて肘を曲げます。逆の手で曲げた肘を持ち、ゆっくりと引っ張ります。背中から片にかけてを伸ばします(左図)。肘を持てない人や、持つと辛い人は、手首を持って行います(右図)。気持ちよいと感じる程度に伸ばしましょう。

前腕(外側、内側)

椅子に座り、一方の腕を伸ばし、手の甲を前に向け、逆の手で手の甲を押さえます。手の甲を前にしたまま、肘をゆっくりと伸ばします。肘から手首の外側を意識します(左図)。今度は手のひらを前方に見せ、逆側の手で手の指全体を押さえます。手のひらを前にしたまま、肘をゆっくりと伸ばします。肘から手首の内側を意識して伸ばします(右図)。

椅子に浅く座り、両足を肩幅より広く開きます。ゆっくりとあごを引き、背中を丸めながら、上半身を両足の間に落とします。腰から背中にかけてを意識して伸ばします。

上腕

椅子に座り、片方の腕を前方へ肩の高さまで上げます。逆側の手で伸ばした肘を持って、自分の方へゆっくりと引っ張ります。肩から腕の付け根にかけてを意識して伸ばします。

背中

椅子に座り、両手を組みます。組んだ手を前に押し出すようにして、背中を丸めます。肩甲骨を左右に広げるような感じで、背中の筋肉を意識します。

太もも(前側、後ろ側)

(前)椅子の前に立ち、片方の脚のすねを座面にのせて、太腿の前側の筋肉を伸ばします。まだ余裕がある人は、膝を後ろにずらしてみましょう(左図)。
(後ろ)椅子に浅く座り、片方の脚を前方に伸ばします。この時、両手で椅子をしっかり持ちます。上半身をまっすぐ伸ばしてから、軽く前方に曲げます。余裕がある人は、つま先を自分の方向に引っ張ります(右図)。

制作:NPO法人芸術家のくすり箱 文:水村真由美(お茶の水女子大学大学院准教授) [2010.7作成]